掛井 五郎 展「 哀歌 」

終了したイベントの記録です

掛井 五郎 展「 哀歌 」

掛井五郎 哀歌

神の前で 神と共に 神なしで生きる (神学者ボンへッファーの言葉)

掛井五郎(1930-2021)は、1950年代から晩年にいたるまで、日本の彫刻界の第一線で活躍を続けてきました。その作品はブロンズによる人間像を中心としたものですが、大胆なデフォルメが加えられた独特なもので、一見しただけで掛井の作品だとわかる個性を備えています。それらは、ときにユーモラスでありながらも、見る者に「人間とはなにか」を問いかけるものとなっています。
本展は2008年に制作された三つの画巻《哀歌》《ヨハネ黙示録》《ノアの箱舟》を中心とした構成となります。いずれも20メートルを超える長大なサイズですが、感情のほとばしりに任せるように一気呵成に描き上げられています。掛井の彫刻作品にもよく登場するような、大胆なデフォルメによる人間の姿と、その間に書き記される言葉(物語)とが一体となって、見る者の胸に迫ってくるものとなっています。
これらの主題は、いずれも、キリスト教に由来するものですが、これらの作品の意味はそこに限定されるものではありません。彫刻作品についても、とくに初期には、キリスト教に由来するタイトルをもつものも多くつくられてきましたが、作者の主眼は、それを通じて、人間という存在の本質を問うことにあるように思われます。その意味では、ロダンの受容に端を発して、日本近代彫刻史のなかで形成されてきた「ヒューマニズムの系譜」に連なるものといえます。
三つの画巻は、長大であることから、これまでは部分的に展示されたことしかありませんでした。本展では《哀歌》の28メートル近い画面のすべてを展示します。また、《ヨハネ黙示録》と《ノアの箱舟》を部分的に展示するほか、同時期のデッサンや彫刻小品なども紹介します。

藤井匡 / 美術評論家、東京造形大学教授

会期 2023年1月14日(土)- 3月26日(日)
開館時間 11時~18時30分(入館18時まで)
開館日 木・金・土・日曜日
入場料 一般 500円 / 大高生 400円 / 小中学生 300円
会場 東京アートミュージアム ➡ Map
主催 東京アートミュージアム
企画 一般財団法人プラザ財団
協力 一般財団法人掛井五郎財団

 

 
《哀歌》 巻物 2008年

 

会場風景(2023年1月13日)

 


版画の〈うつす〉

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版画の〈うつす〉

うつす。漢字では「写す」「映す」「移す」などと表記して、各々で意味が異なります。「写す」は「文書・絵などを元のとおりに書き取る」、「映す」は「反射や投影などによって物の形や姿を他の物の表面に現す」、「移す」は「位置や地位を変える」といった意味で用いられます。しかし、言葉を使おうとすると、どの漢字をあてるべきか迷うことが多々あります。実際には、これらは明確に切り分けられないところがあるのです。それは〈うつすもの〉と〈うつされるもの〉の関係が、微妙なニュアンスの違いをもちながら、多様に絡まりあっているからだと思われます。
美術作品の場合、抽象的であれ具象的であれ、観念的であれ実在的であれ、定着されたあるイメージ(像)が視覚的に伝えられることになります。このイメージを生み出し、定着させる方法はアーティストごとにさまざまであり、それが美術表現の豊かな広がりをつくりだします。〈うつす〉の多様性はこの豊かさに導かれるものと言えます。特に版画技法を用いる表現では、〈うつす〉の多様性はさらなる展開を見せることになります。技法のもたらす制約や版元(プリンター)との関係が表されるイメージにフィードバックされるからです。
本展に出品される五人のアーティストは、いずれも、絵画や彫刻などを手がけてきた作家であり、版画を中心に制作を行ってきたわけではありません。だからこそ、ここでの〈うつす〉の意味はより重層的になります。1枚の版画のなかに見られる〈うつす〉の多様な意味を考えることから、「版画を見ること」と「版画を通して(何かを)見ること」の面白さを発見していただければと思います。

藤井匡/美術評論家、東京造形大学教授

会期 2022年7月9日(土)- 12月25日(日)
開館時間 11時~18時30分(入館18時まで)
開館日 木・金・土・日曜日
休館日 月・火・水曜日
夏季休館:8月12日(土)- 14日(日)
入場料 一般 500円 / 大高生 400円 / 小中学生 300円
会場 東京アートミュージアム ➡ Map
主催 東京アートミュージアム
企画 一般財団法人プラザ財団

 

 
堀浩哉 舟越桂
 
彦坂尚嘉 若林奮
 
辰野登恵子